小形チップ部品のはんだ付けが容易

世界一贅沢かもしれない

金メッキL型こて先による「点眼はんだ法」

1.はじめに
オペアンプ基板バナー  ネット上の動画等で、小形チップ部品を上手にはんだ付けしているものは部品実装密度が低く、パッドのサイズ、即ち加熱スペースが充分大きい、 練習用基板の様な場合がほとんどです。

 一方、電子回路の開発現場で小形チップ部品のはんだ付けが必要とされるケースは、量産向け試作品の手作業組み立て、後納部品の後付け、検証作業に伴う部品変更等であり、 練習用基板とは異なる難しさがあります。(詳細は後述の補足2.なぜチップ部品のはんだ付けが難しいのか参照)

 弊社の CHIP/DIP兼用ユニバーサル基板「PX1320」 もパターン密度が高く、一般的なはんだ付け技法では はんだ付け部周辺のパッドやスルーホールに不要はんだが付着し易いのですが、販売者が上手くはんだ付け出来ないのは拙いという事もあり、 初心者でも容易な「実用的なチップ部品のはんだ付け方法」を調査しましたが見つかりませんでした。

 それなら自社で、と試行錯誤し、ある程度満足できる結果を得たので、「点眼はんだ法」として結果を本稿にまとめました。
 なお、本稿は以前「押しはんだ法」として発表したものを、その後の進展に伴い大幅に改訂したものです。

2.点眼はんだ法
SMD用ユニバーサル基板バナー  本稿では1608Mサイズのチップ抵抗のはんだ付けを例にして記しますが、他のサイズのチップ部品についても「点眼はんだ法」はそのまま適用できます。

(1)L型こて先を準備
 一般的なこて先では大き過ぎ、市販に適当なこて先が無いので、自作します。
 製作方法は 点眼はんだ法用金メッキL型こて先の製作 に依ります。

 合わせて、手でのはんだ供給から解放 点眼はんだ法にも便利 はんだホルダを使用するとさらに効率的です。


(2)点眼はんだ法の基本手順

No. 手順 説  明
 1 後出「点眼はんだ法」の基本操作の動画参照  SMDクランプで部品を位置決めし、パッドと部品の電極にフラックスを塗布します。

【注意】
 1005Mサイズ以下の場合はSMDクランプアダプタを併用します。
 位置決め時、ピンセットにフラックスを塗布して置くと部品が飛んで無くなる事が少なくなります。
 2 はんだ付け1  こて先の半田良着域に所要量のはんだを載せます。
 はんだは表面張力でドーム状になり、はんだ量の調整が容易にできます。

【注意】
 はんだ付け作業継続に伴い、こて先にはんだが載り難くなり易いので、適宜ケミカルペースト等で活性化させて下さい。
 また、作業後は必ず半田良着域にはんだをドーム状に載せてから、はんだゴテの電源を落として下さい。
 3 はんだ付け2  こて先をパッド近くに置き、はんだドームで間接的にパッドを加熱します。
 こて先には力を加えず、感覚的にはパッドから浮かせた状態に保ちます。
 これにより、こて先によるレジスト損傷を防止できます。
 4 はんだ付け3  はんだドームでパッドが過熱され、はんだがチップ部品の電極に毛管現象で染み込んで行くのを待ちます。(フラックス塗布が前提条件です)
 5 はんだ付け4  チップ部品の電極のメッキ(錫、はんだ等)も加熱されて溶けて来たら、こて先を僅かに回転させ、前後に動かして こて先のはんだと馴染ませ、フィレットが出来たらこて先を引き離します。

【注意】
 こて先を直接電極に接触させる場合は、できるだけ短時間にします。
 6 後出「点眼はんだ法」の基本操作の動画参照  反対側の電極も同様に「点眼はんだ法」ではんだ付けし、フラックスリムーバと綿棒や不織布等を用いてフラックスを洗浄してはんだ付け完了です。
 作業終了時には半田良着域の保護の為に、こて先にはんだを載せて置きます。



 以下は 「点眼はんだ法」の基本操作の動画 です。
 上手とは言えませんが、「点眼はんだ法」によれば「初心者でもこの程度にはできる様になる」とも言えます。

  「点眼はんだ法」の基本操作


1608Mチップ抵抗 x 2個のはんだ付け
「L型こて先」を用いて「点眼はんだ法」により、2.54mmピッチで隣接する1608Mチップ抵抗 x 2個のはんだ付けを行ないます。

●はんだ付け条件
こて先:オリジナルL型(金メッキ)
はんだ:Φ0.3mm 鉛フリーはんだ
SMDクランプ:SMDクランプ(150mmアーム)PX1810
基板:CHIP/DIP兼用ユニバーサル基板「PX1320」


1608Mチップコンデンサのはんだ付け
「L型こて先」を用いて「点眼はんだ法」により、2.54mmピッチで隣接する1608Mチップコンデンサのはんだ付けを行ないます。

●はんだ付け条件
こて先:オリジナルL型(金メッキ)
はんだ:Φ0.3mm 鉛フリーはんだ
SMDクランプ:SMDクランプ(150mmアーム)PX1810
基板:0.65mmSSOP用ユニバーサル基板「PX1610」
SMDクランプバナー
 本稿の主題である「点眼はんだ法」の手順は以上であり、以下がポイントです。
 @小形チップ部品対応のこて先を用いる。
 Aこて先の狭い半田良着域ではんだをドーム状にし、はんだ量のコントロールを容易にする。
 B狭いはんだ付け箇所をドーム状はんだで間接的に加熱し、はんだを浸透させる。
 Cこて先の移動範囲が微小。
 
 前記の様に、「点眼はんだ法」は感覚的には こて先を基板に押し付けず宙に浮かしたままにし、はんだの滴がはんだ付け部に染み込んで行くイメージであり、 目に目薬をさすのと似ています。
 「押しはんだ法」や「スタンプ法」の呼称でも良さそうですが、こて先を基板に押し付ける印象が強いので、敢えて「点眼はんだ法」と呼ぶ事にしました。

 なお、はんだ付け練習方法については、初心者の為の点眼はんだ法の効率的練習方法にまとめました。

 以下は補足説明として関連事項をメモしたものなので、ご興味をお持ち頂けたらご覧下さい。


【補足説明】

補足1.一般的なはんだ付け方法
 以下の2つはインターネット上等で見られる一般的なはんだ付け方法の概要です。
付加機能付きユニバーサル基板_バナー
@はさみはんだ法
 チップ抵抗の電極とこて先の間にはんだを挟んで溶解し、同時にパッドを加熱しながらこて先をチップ抵抗の電極に押し当てる様に移動させてはんだ付けします。
はさみはんだ法の図
          図1 はさみはんだ法

 初心者でも比較的容易にできますが大きな加熱スペースが必要で、メーカ推奨寸法の加熱スペース 0.2mm程度の製品用基板では、 Φ0.3mmのはんだを用いたとしてもはさみはんだ法は使えない事になります。

 即ち、はさみはんだ法は、加熱スペースが小さい場合のチップ部品に関しては余り実用的ではなさそうです。

A溜め流しはんだ法
 一般的な呼称が不明なので仮称です。
 予めこて先にはんだを溜めた状態(表面張力でドーム状に盛り上がった状態)にし、こて先でパッドを加熱しながらチップ抵抗の電極に押し当てる様に移動させてはんだを流し込みます。(図2)
 なお、図2においてこて先の上下が逆(はんだがパッド面側)の場合もあります。
溜め流しはんだ法の図
     図2 溜め流しはんだ法

 こて先に溜めたはんだの多くが流れ出す一方、溜めるはんだが少な過ぎるとはんだが移行しないので、はんだ量のコントロールが難しく、 加熱スペースが小さい場合のチップ部品に関しては、溜め流しはんだ法も余り実用的ではなさそうです。

 何れの方法でもパッドが充分大きい場合には余分なはんだはパッド全面に広がるので余り問題になりませんが、パッドが小さく加熱スペースが小さい基板では、 はんだ量過多で懸垂曲線状のフィレットにならず、ドーム状に盛り上がり易くなるか、部品の電極にのみはんだが載り、パッドにははんだが載らない場合も出てきます。

 言い換えると、多ピンのSOPやSSOP、トランジスタやダイオード等の三端子素子の表面実装部品のはんだ付けは従来方法のはんだ付けで充分であり、 練習用基板であればチップ部品も何とかなりそうですが、製品用基板でのチップ部品のはんだ付けは初心者には容易ではない事が判ります。


補足2.なぜチップ部品のはんだ付けが難しいのか
@リフロー用パッドの加熱エリアが小さく、こて先が当て難い
1608パッド寸法図
   単位[mm]
    図3 1608Mチップ抵抗リフロー用パッド

 ここで 図3 1608Mチップ抵抗のリフロー用パッド に示す様に一般的にはパッド外-外寸法が2.0mm(程度)の為、長手方向1.6mmのチップ抵抗に対して、 こて先を当てる事ができる加熱スペース(電極とパッド外端の距離)は約 0.2mmと小さく、一般的なこて先は届き難く、直接パッドを加熱するのは困難です。

 1608Mより小形のチップ部品に関しても事情は同じで、小形になる分さらに加熱スペースは小さく、パッドの加熱はより困難になり、はんだ付けは難しくなります。

小形チップ部品用パッド断面図
   図4 小形チップ部品用パッドの断面図

 また、図4 小形チップ部品用パッドの断面図 に示す様に小形チップ部品ではパッドの面積が小さいので、相対的にレジストの厚みが無視出来ないものとなり、 パッドはレジストの壁に囲まれた井戸の底に位置する様な状態になります。
 その場合、尖った部分を持たない一般的なコテ先では、パッドに直接接触させて加熱するのは困難であり、 その上、そこにまんべんなくはんだを流し込んできれいにはんだ付けするのは容易ではありません。

 先端の細さを謳ったコテ先もありますが、小形チップ部品でもパッドが電源やグランドパターンに直接繋がった様な場合は、 パッドの加熱には大きな熱容量のコテ先が必要であり、部品が小形ならそれに応じて細いコテ先を使用すれば良いという事にはなりません。

 例えば、1608Mサイズのチップ部品をC型のコテ先ではんだ付けする場合、経験的にはその先端の円柱径は1.5mm以上が望ましく、 1.0mmmmでは熱容量が不足してはんだ付けはかなり困難という印象です。

Aはんだの適量が微量で、一般的なこて先でははんだ量のコントロールが困難
 小形チップ部品の適正なはんだ量は微量、且つ許容範囲が狭いので、一般的なこて先でははんだ量のコントロールは困難であり、 はんだ量が多くなり過ぎて、後述する補足5.パッドサイズと適正はんだ量の許容範囲量に示す様に、 仕上がりは「はんだ量過多」の状態になり易くなります。

 こて先のはんだ量が多いと、こて先を引き離す際にはんだ付け箇所がツノ状になり易い事にも注意が必要です。

B周辺部品にはんだが付着し易い
 部品の実装密度が高く、はんだ付け対象の近くに他の部品のパッドやスルーホールが配置されたプリント基板のはんだ付けを、 「挟みはんだ法」や「溜め流しはんだ法」等の一般的な方法で行なうと、はんだ付け箇所近傍の部品に、不要なはんだを付着させ易くなります。

 これは外観を壊すだけでなく、短絡事故等の不具合を引き起こす事にもなりかねません。

補足3.1608Mサイズチップ抵抗のリフロー用メーカ推奨パッド寸法
 図5は KOA社 の推奨パッドサイズからの抜粋です。
KOA社推奨パッド寸法
      図5 推奨パッドサイズ(KOA社)

 B寸法は他のメーカでもほぼ同様で最小2.0mmです。
 朱書きの追記の様に、その時の各電極の加熱スペースは0.2mmであり、量産用基板での手はんだ付けがし易い条件とは言い難いものです。

 0.6mmのC寸法はメーカ毎に多少異なっており、本稿では0.8mmとしています。

補足4.適正はんだ量
そもそも、適正なはんだ量は幾らでしょうか?

1608Mチップ抵抗の高さ0.45mm、加熱スペース0.2mm、パッド幅0.8mmとした場合に、 フィレットの懸垂曲線状部が直線になった状態を適正なフィレットの最大値とし、はんだの体積と対応するΦ0.3mmの糸はんだの長さを図6で概算しました。
実際には表面張力で底面と上面は平行になり得ませんが、あくまで概算なので三角柱で近似させます。

 なお、ホーザン社によると糸はんだのフラックスを除く正味のはんだは円柱体積の約81%との事なので、概算にはこの値を使用しています。

はんだ量概算
    図6 適正はんだ量の概算 (クリックで拡大)

図6から必要なΦ0.3mmの糸はんだの長さは最大でも0.63mmであり、かなり少ない事が判ります。
実際にはこて先に付着するはんだが有るので適正はんだ量は0.7〜1.0mm程度と考えられます。


 参考として、その他のサイズの小形チップ部品についても同様に計算すると下表になります。

  単位は全て [mm]
サイズ パッド幅 加熱スペース長 Φ0.3mmはんだ長
計算値
1608M 0.8 0.2 0.63
1005M 0.5 0.2 0.31
0603M 0.3 0.15 0.09
0402M 0.2 0.1 0.04
0201M 0.125 0.1 0.02


補足5.パッドサイズと適正はんだ量の許容範囲量
 パッドが小さく加熱スペースが小さいと、適正はんだ量の許容範囲が狭い事を図7で説明します。
はんだ過多説明図
         図7 はんだ量過多の状態比較

 図7(a)の加熱スペースが大きい場合は、懸垂曲線状のフィレットを構成するはんだ量を越えるはんだは、 加熱スペース全体に薄く広がるのでフィレットの形状に及ぼす影響が小さく、その分はんだ量の調整は容易になります。

 一方、図7(b)の加熱スペースが小さい場合は、はんだ過多分のほとんどがチップ抵抗の厚み方向に積まれるので、 フィレットは表面張力でドーム形に膨らみ、懸垂曲線状とは程遠いものになります。
 これははんだ量の適正範囲が狭く、はんだ量の調整が難しくなる事を意味します。

 さらに、パッドの加熱スペースが小さい為、パッドが充分に加熱されずにはんだが載らない不具合が発生し易くなります。
 しかも外観上は電極側だけに載ったはんだがパッドにも載っている様に見えるので、目視では発見がし難い不具合です。


 以上 (最終改訂 2021/08/23)

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