小形チップ部品のはんだ付けを容易にする

L型こて先と微小はんだドームによる「押しはんだ法」


 「押しはんだ法」を改良し
 小形チップ部品のはんだ付けが容易 L型こて先による「点眼はんだ法」
に大幅改訂しました。
 今後は上記をご覧ください。 (2020/06/23)



●「押しはんだ法」の実際

【準備】
(1)L型こて先を準備
 現時点では、L型こて先は市販品に無いので、B型(円錐型)のこて先の先端の一部をヤスリで削り、 半田良着域(はんだが載る領域)として直径約0.4mmの円に相当する面を作り、その他は半田不着域(はんだが載らない領域)になる様に改造します。
 加工部がL型に見えるので「L型こて先」と呼ぶものとしました。

 半田良着域は必ずしも円でなくても縦、横の大きさが同程度の円や楕円の一部、または多角形等加工し易い形状で良く、 載せた微量のはんだがドーム状に盛り上がる様にする事がポイントです。

B型こて先の改造図
      図1 L型こて先

 こて先改造手順
No. 写  真 説  明
 1. B型こて先  B型こて先
 写真はT18-B (白光株式会社)
 2. B型こて先の研削  こて先先端の一部を削り取った状態。

【注意】こて先は短時間ではんだ食われにより劣化するので、表面に銅の地金が出る程削らない様にする。
 3. はんだメッキ  はんだゴテを約350度(鉛フリーはんだの場合)に熱して、こて先先端の半田良着域にする約Φ0.4mmの円状に、はんだを載せてはんだメッキをする。
 4. 油性マジック塗布  一旦はんだゴテの電源を落とし、冷めてからこて先全体を油性マーカで塗る。
 5. 油性マジック塗布後の状態  油性マーカで塗り終わった状態。
 その後再度はんだゴテを約350度、1分間程度加熱する。
 油性マーカで塗った部分は半田不着域になる。
 その後はんだゴテの電源を落として完成。


(2)カットはんだを準備
オペアンプ基板バナー  はんだ付けをする毎に、L型こて先先端の半田良着域に糸はんだを当てて、所要量のはんだを載せても良いのですが、はんだ量のコントロールには多少の熟練が必要です。

 適量サイズのはんだボールも使用出来ますが、入手性が良くありません。

 そこで、予め糸はんだ(Φ0.3mmを推奨)をはんだ付けに必要な量の長さにカッターでカットし、作業台代わりのプリント基板の端材等にフラックスを塗り、そこにカットしたはんだ(以降カットはんだ)を バラ撒いて置く方法を推奨します。
 後は、はんだ付けする毎にこて先の半田良着域にカットはんだを載せるだけで、はんだ量のコントロールが正確且つ容易にできる事になります。

 その様子は動画「押しはんだ法」の基本操作をご覧下さい。
 本方法によると、はんだ付け作業中の糸はんだを操作する手が不要となる大きなメリットも得られます。


【押しはんだ法の基本手順】

No. 手順 説  明
 1. 後出の「押しはんだ法」の基本操作の動画参照  SMDクランプで部品を位置決めし、パッドと部品の電極にフラックスを塗布する。

【注意】
 1005Mサイズ以下の場合はSMDクランプアダプタを併用する。
 位置決め時、ピンセットにフラックスを塗布して置くと部品が飛んで無くなる事が少なくなる。
 2. はんだドーム  こて先に所要量のはんだを載せる。
 半田良着域の面積が適切であれば、はんだは表面張力でドーム状になる。

【注意】
 改造したこて先は半田良着域が酸化し易く、はんだが載り難くなり易いので、適宜ケミカルペースト等で活性化させる必要がある。
 3. 押しはんだ法断面図1  はんだドームをパッド側にして、パッド近くにこて先を置く。
 必ずしもこて先をパッドに直接接触させる必要はなく、レジスト上でも良い。
 4. 押しはんだ法断面図1  こて先を回転させ、ドーム状はんだをパッドに「押し」当てて加熱し、溶けてパッドに流れ込むのを待つ。
 パッドにはんだのスタンプを「押す」イメージ。

 【注意】
 クランパ上部を軽く指で押すと部品のずれを防止できる。(位置決めした部品への加圧 参照)
 5. 押しはんだ法断面図3  上記で部品の電極にはんだが届かない場合は、こて先の半田良着域の面を立てて電極側に「押し」付ける様に平行移動させる。

 【注意】
 こて先を直接電極に接触させる場合は、できるだけ短時間にする。
 6. 後出の「押しはんだ法」の基本操作の動画参照  反対側の電極も同様に「押しはんだ法」ではんだ付けする。
 7. 後出の「押しはんだ法」の基本操作の動画参照  フラックスリムーバと綿棒や不織布等を用いてフラックスを除去し、はんだ付け完了。
 作業終了時には半田良着域の保護の為に、こて先にはんだを載せて置く。


 以下は「押しはんだ法」の基本操作の動画です


■「押しはんだ法」の基本操作
カットはんだを用い、押しはんだ法でパッドにはんだ付けする
 


 以下の動画は若干未熟ですが、押しはんだ法による小形チップ部品のはんだ付けの様子です。
 はんだ付け対象近辺に紙テープを貼っているものがありますが、これははんだ付け対象を明示する為のもので、マスキングの為ではない事に留意願います。


■押しはんだ法による1608Mチップ抵抗のはんだ付け
はんだ:Φ0.3mm鉛フリーはんだ
基板:CHIP/DIP兼用 ユニバーサル基板PX1320(有限会社 プロエクシィ)


■押しはんだ法による1005Mチップ抵抗のはんだ付け
はんだ:Φ0.3mm鉛フリーはんだ
基板:0603M,0402M,0201M 超微細 練習用基板 (ゴッドはんだ株式会社)



■押しはんだ法による0603Mチップ抵抗のはんだ付け
はんだ:Φ0.3mm鉛フリーはんだ
基板:0603M,0402M,0201M 超微細 練習用基板 (ゴッドはんだ株式会社)


 

●押しはんだ法の説明
 以下は小形チップ部品のはんだ付けが難しい主な原因と対策です。

@パッドの加熱が困難
 ネット上の動画等で、小形チップ部品を上手にはんだ付けしているものは部品実装密度が低く、パッドのサイズ、即ち加熱スペースが充分大きい、 練習用基板の様な場合がほとんどです。
付加機能付きユニバーサル基板_バナー
 一方、電子回路の開発現場で小形チップ部品のはんだ付けが必要とされるケースは、量産向け試作回路の手作業組み立て、後納部品の後付け、検証作業に伴う部品変更等です。
 言い換えれば、開発現場で必要となるチップ部品の手はんだ付けのほとんどはリフロー用パッドに対するものであり、 実用的な手はんだ作業としてはリフロー用パッドを前提とする必要があります。
1608パッド寸法図
   単位[mm]
    図2 1608Mチップ抵抗リフロー用パッド

 ここで図2 1608Mチップ抵抗のリフロー用パッドに示す様に一般的にはパッド外-外寸法が2.0mm(程度)の為、長手方向1.6mmのチップ抵抗に対して、 こて先を当てる事ができる加熱スペース(電極とパッド外端の距離)は約 0.2mmと小さく、一般的なこて先は届き難く、直接パッドを加熱するのは困難です。

 1608Mより小形のチップ部品に関しても事情は同じで、小形になる分さらに加熱スペースは小さく、パッドの加熱はより困難になり、はんだ付けは難しくなります。

小形チップ部品用パッド断面図
   図3 小形チップ部品用パッドの断面図

 また、図3 小形チップ部品用パッドの断面図に示す様に小形チップ部品ではパッドの面積が小さいので、相対的にレジストの厚みが無視出来ないものとなり、 パッドはレジストの壁に囲まれた井戸の底に位置する様な状態になります。
 その場合、尖った部分を持たない一般的なコテ先では、パッドに直接接触させて加熱するのは困難であり、 その上、そこにまんべんなくはんだを流し込んできれいにはんだ付けするのは容易ではありません。

 その対策としてパッドに予備はんだをして置く方法もありますが、小形チップ部品では凸凹の無い滑らかな予備はんだが必要で、 それなりの熟練と手間が掛かるので最善の方法とは言えません。

 先端の細さを謳ったコテ先もありますが、小形チップ部品でもパッドが電源やグランドパターンに直接繋がった様な場合は、 パッドの加熱には大きな熱容量のコテ先が必要であり、部品が小形ならそれに応じて細いコテ先を使用すれば良いという事にはなりません。

 例えば、1608Mサイズのチップ部品をC型のコテ先ではんだ付けする場合、経験的にはその先端の円柱径は1.5mm以上が望ましく、 1.0mmmmでは熱容量が不足してはんだ付けはかなり困難という印象です。

 【対策】
 L型こて先は十分な熱容量を持ちます。
 且つ、半田良着域の面積が小さいので、微量のはんだでも表面張力でドーム状に盛り上がり、ドーム状はんだをパッドに押し付ける事により、間接的にこて先本体が届かないパッドを加熱する事を可能にします。

 なお、ほとんどのメーカのチップ部品の仕様書には、電極を含む部品本体に直接こて先を当てない様に注記しているので、 本来は「こて先の半田良着域の面を立てて電極側に「押し」付ける様に平行移動させる」のは良くないかもしれません。

 しかし、はんだ付け不良を発生させるのは拙く、信頼の置ける日本メーカ品で試してみて特に問題は無かったので、敢えて短時間接触させるものとしました。
 但し、長期間の信頼性が確保されるかどうかは不明です。


SMD用ユニバーサル基板バナー Aこて先に載せるはんだ量のコントロールが困難
 小形チップ部品のはんだ付けでは、こて先にはんだを供給しながらはんだ付けするのは困難の為、押しはんだ法では所要量のはんだを予めこて先に載せて置きます。

 その場合、小形チップ部品の適正なはんだ量は微量、且つ許容範囲が狭いので、一般的なこて先でははんだ量のコントロールは困難であり、 はんだ量が多くなり過ぎて、後述するパッドサイズと適正はんだ量の許容範囲に示す様に、 仕上がりは「はんだ量過多」の状態になり易くなります。

 こて先のはんだ量が多いと、こて先を引き離す際にはんだ付け箇所がツノ状になり易い事にも注意が必要です。

 【対策】
 L型こて先では半田良着域の面積が小さい為、はんだ量に応じたドームの高さの変化は明瞭です。
 これにより、はんだ量の調整がし易くなります。

 さらに、はんだ量が増すとはんだは球形に近くなり、それ以上はこて先に付着せず、落下します。
 これによりはんだ量の上限ができ、はんだ過多を引き起こし難くなります。


B周辺部品にはんだが付着し易い
 部品の実装密度が高く、はんだ付け対象の近くに他の部品のパッドやスルーホールが配置されたプリント基板のはんだ付けを、 「挟みはんだ法」や「溜め流しはんだ法」等の一般的な方法で行なうと、はんだ付け箇所近傍の部品に、不要なはんだを付着させ易くなります。

 これは外観を壊すだけでなく、短絡事故等の不具合を引き起こす事にもなりかねません。

 【対策】
 L型こて先の先端は細く、こて先を部品側に回転させるか、部品側に押し付ける方向でしか動かさず、且つ、その移動範囲が極めて小さいので、 本質的に近くの部品にはんだを付着させ難くなります。



●押しはんだ法のポイント
 以下が押しはんだ法のポイントです。
@小形チップ部品対応のこて先を用いる。
Aこて先の狭い半田良着域ではんだをドーム状にし、はんだ量のコントロールを容易にする。
B狭いはんだ付け箇所をドーム状はんだで間接的に加熱し、はんだを流し込む。
Cこて先の移動が部品の電極向けのみの片方向、且つ移動範囲が微小。



 本稿の主題である「押しはんだ法」の基本説明は以上です。
 なお、はんだ付け練習方法については、初心者の為の押しはんだ法の効率的練習方法にまとめています。

 以下は補足説明として関連事項をメモしたものなので、ご興味をお持ち頂けたらご覧下さい。


【補足説明】

●1608Mサイズチップ抵抗のリフロー用メーカ推奨パッド寸法
 下図は KOA社 の推奨パッドサイズからの抜粋です。
KOA社推奨パッド寸法
 B寸法は他のメーカでもほぼ同様で最小2.0mmです。
 朱書きの追記の様に、その時の各電極の加熱スペースは0.2mmであり、量産用基板での手はんだ付けがし易い条件とは言い難いものです。

 0.6mmのC寸法はメーカ毎に多少異なっており、本稿では0.8mmとしています。

●パッドサイズと適正はんだ量の許容範囲
 パッドが小さく加熱スペースが小さいと、適正はんだ量の許容範囲が狭い事を図4で説明します。
はんだ過多説明図
         図4 はんだ量過多の状態比較

 図4(a)の加熱スペースが大きい場合は、懸垂曲線状のフィレットを構成するはんだ量を越えるはんだは、 加熱スペース全体に薄く広がるのでフィレットの形状に及ぼす影響が小さく、その分はんだ量の調整は容易になります。

 一方、図4(b)の加熱スペースが小さい場合は、はんだ過多分のほとんどがチップ抵抗の厚み方向に積まれるので、 フィレットは表面張力でドーム形に膨らみ、懸垂曲線状とは程遠いものになります。
 これははんだ量の適正範囲が狭く、はんだ量の調整が難しくなる事を意味します。

 さらに、パッドの加熱スペースが小さい為、パッドが充分に加熱されずにはんだが載らない不具合が発生し易くなります。
 しかも外観上は電極側だけに載ったはんだがパッドにも載っている様に見えるので、目視では発見がし難い不具合です。


●適正はんだ量
 そもそも、適正な所要はんだ量は幾らかを意識せずに、作業の中での見た目の状況ではんだを供給するのは合理的とは言い難いですが、その様なケースは案外多そうです。

 そこで、1608Mチップ抵抗の高さ0.45mm、加熱スペース0.2mm、パッド幅0.8mmとした場合に、 フィレットの懸垂曲線状部が直線になった状態を適正なフィレットの最大値とし、はんだの体積と対応するΦ0.3mmの糸はんだの長さを図5で概算しました。
 実際には表面張力で底面と上面は平行になり得ませんが、あくまで概算なので三角柱で近似させます。

 なお、ホーザン社によると糸はんだのフラックスを除く正味のはんだは円柱体積の約81%との事なので、概算にはこの値を使用しています。

はんだ量概算
        図5 適正はんだ量の概算

 図5から必要なΦ0.3mmの糸はんだの長さは最大でも0.63mmであり、かなり少ない事が判ります。
 実際にはこて先に残るはんだや、レジストで電極がパッドから浮いた場合の所要はんだ量の増加が有るので適正はんだ量は0.7〜1.0mm程度と考えられます。

 参考として、その他のサイズの小形チップ部品についても同様に計算すると下表になります。

  単位は全て [mm]
サイズ パッド幅 加熱スペース長 Φ0.3mmはんだ長
計算値
1608M 0.8 0.2 0.63
1005M 0.5 0.2 0.31
0603M 0.3 0.15 0.09
0402M 0.2 0.1 0.04
0201M 0.125 0.1 0.02


●L型以外のこて先と特注こて先について
 B型こて先を改造したL型こて先でなくても、先端が細く、狭い半田良着域を作り込めれば他の形状のこて先でも構いません。
 例えばK型(ナイフ型)やC型のこて先の先端を改造した物でも良好な結果を得ています。

 しかし、改造したこて先はそれ用のメッキになっていないので、酸化に対する耐久性の点で充分とは言い難いものです。
 幸いメーカさんによると、少数でもこて先の特注品を作れるとの事でしたので、 今回の改造品を元に、正しくメッキ加工された特注こて先を製作する予定です。

 結果が出たら本稿に追記します。


●雑記
 「ハンダ付け職人のはんだ付けblog」の 0201実装 や、 0402M実装 の動画では、 簡単そうに見えますが、同様に行なうのは困難で、正に神業、God Hand の技としか思えません。

 ただ、同練習用基板には部品間のスペースが充分あり、大きなこて先も使えますが、小形チップ部品を用いる実回路では部品の実装密度も高く、より難易度は高いと思われるので、 動画の神業をそのまま真似ても実務では使えないかもしれません。

 恐らく世の中には他にも多くの「神の手」や「女神の手」が有ると思われます。
 しかし、それらは「秘技」なのか、一般的にはどの様にしているかネット等で調べても、実用的なものは見当たりませんでした。
 押しはんだ法は、その様な寡聞な初心者が実回路にも使えるものとして考えたものですが、「神業」ではどの様に処理されるのか、教えを乞いたい処です。

 余談ですが、神業のはんだ付けもさることながら、さらに感心するのは、その様な微小部品を厳しい形状や特性の仕様に基づき、 歩留まり良く安価に大量生産する生産技術や装置製作技術、それを搭載する基板の製造ラインに使われる製造装置類の製作技術も、 単なる回路設計屋からは「神業」に思えます。



 以上 (初版 2019/04/27)

−−−−− 本ページはここまで −−−−−