【技術資料】フリーレンジシャント(FRS)適用例

FIDアンプへの適用事例

初版 (2013/7/17)

  フリーレンジシャント(以下FRS)(特許第3628948号)が化学分析機器メーカの ジーエルサイエンス株式会社様のガスクロマトグラフ用FIDアンプに採用されていますので適用例としてご紹介します。
 なお、本稿はジーエルサイエンス株式会社様の個別製品について具体的に述べたものではなく、当社がFIDに関する電流/電圧変換回路について一般論としてまとめたものであり、内容に関する責任は全て当社にある事をご了承下さい。

1.FIDアンプとは
 水素炎イオン化検出法(Flame Ionization Detector)は試料ガスと水素を混合してノズルから流出させて燃焼させ,コレクタ電極と対極間に流れるイオン電流を測定して炭化水素濃度を測定する方法です。(*1)
 そのイオン電流を検出するのがFIDアンプで、機能は電流/電圧変換回路そのものです。
 通常その電流は1pA〜10μA程度でFIDアンプには6〜7桁の大きなダイナミックレンジが必要です。

   *1 : 分析機器の手引き(第18版) プロセス用・現場用分析機器 121頁
        分析機器の手引き(第18版)環境(公害)用分析機器    172、189、213頁
           社団法人日本分析機器工業会

2.従来の方法
 以下はFIDアンプに従来から一般的に用いられている電流/電圧変換の方法です。

@I/V変換抵抗をレンジ毎に切り替える
リレーによるレンジ切り替え  オペアンプとI/V変換抵抗を組み合わせた一般的な電流/電圧変換回路であり、I/V変換抵抗をレンジ毎に用意し、これを高絶縁リレーで切り換える方法です。
 汎用的な部品で構成できるので部品入手性が高く、製造の観点からは優れています。
 さらに、各レンジ毎にフルスケール(以下FS)がA/D変換器のFSに対応するので分解能が高くなります。
 また、精度はI/V変換抵抗の安定度でほぼ決まるので、精度を高める事が比較的容易で、出力電圧はリニアでありバイポーラ対応(正負電流対応)可能です。

 一方、I/V変換抵抗が大きくなると時定数が大きくなり、回路の応答が遅くなります。
 また、オートレンジ化が困難の為固定レンジが一般的であり、試料に対する最適なレンジを探すには測定を複数回繰り返す必要があり、ユーザから見た使用勝手はあまり良くありません。

A対数アンプ等の非線形回路を使用
対数アンプ原理図  6〜7桁のダイナミックレンジが得られレンジ切り替えが不要の為、最適レンジを探す為の試行錯誤が不要でユーザから見た使用勝手は良くなります。
 また、大きな時定数が無いので応答速度を速くする事ができます。

 一方で、電流/電圧変換動作の温度依存性が高いので精度を保つ為には回路周辺の恒温対策が必要です。
 さらに、ダイナミックレンジの全範囲がA/D変換器のFSに対応するので分解能が低くなります。
 それらの原因によりI/V変換抵抗方式に比べて精度を高めるのが困難です。
 また、バイポーラ対応が困難で出力電圧はノンリニアです。
 さらに、使用部品の特殊性が高いので長期に渡る安定入手性が悪く、メーカには大きな不安材料になります。

Bその他
 従来方法によるFIDアンプの短所改善の要望は多い様で、権利化や実用化の可否は別として関連技術の特許申請も多数あり、例えばFIDアンプとノズル電圧を連動させたり、レンジ切り替えタイミングを検出する為に試料にダミー物質を混入させる等の方法も提案されています。(*2)
 しかし、本来はFIDアンプ単体の問題を、周辺機構と連動させて解決させる方法は装置を複雑にさせるのであまり得策とは言えず、できるだけFIDアンプ自体で解決するのが合理的です。
 また、測定用FIDに加えてダミーFIDを設けて時間的(温度的)に変動するベースラインに相当する電流信号を互いにキャンセルする方法がありますが、その為には電流/電圧変換回路はバイポーラ対応である必要があり対数アンプでは困難です。
 あるいは、電流/電圧変換後に回路で演算処理を要する様な場合には出力電圧はリニアである必要があります。

   *2 : 特願H08−32617
        特願2003−319837

3.FRSの適用
並列形FRS 直列形FRS
 FRSはバイポーラ対応可能、且つリニア出力であり、特にダイナミックレンジを任意に設定でき、オートレンジ可能という特長を用いるとFIDアンプに関する従来方法の欠点を容易に解決できます。
 ジーエルサイエンス株式会社様ではFRSをFIDアンプに適用するに当たり、部品の入手性の良さが第一の選択理由との事でしたが、それ以外にも多くのメリットが得られます。

 判り易くする為に、各方法の特長を下記の「意志決定ツール AMPS法」による比較表にまとめました。
 これから、商業ベースで考えるとFIDアンプにはFRSが最適との結論が妥当である事が判ります。

 FRSは光イオン化検出器(PID:Photo Ionization Detector)、炎光光度検出器(FPD:Flame Photometric Detector等、出力が電流であればその他の検出器にも適用可能と考えられます。
 多くの機器に採用され、役立つ事ができたら光栄です。不明点はお気軽にお問い合わせ下さい。
   問い合わせ先 webmaster@proxi.co.jp



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