本頁のPDF版は フリーレンジシャント概要説明 (Rev.B) (約1052Kバイト) です。
フリーレンジシャント(Free Range Shunt 以下FRS)とは高速、大ダイナミックレンジの電流検出をオートレンジで行なう電流/電圧変換回路(I/V変換回路)の名称(造語)です。
FRSはシャント抵抗の切り替え(レンジ切り替え)を機械式接点でなく、漏れ電流による誤差防止回路を設けた半導体スイッチで高速に行なう回路です。
従来の電流測定ではレンジ切り替え時に電流回路をオープンにしない為に、必ずシャント抵抗の同時オン期間が必要でした。その為、その期間はシャント抵抗の値は2つのシャント抵抗の並列値となり、本来の値とは大きく異なるのでそのまま測定誤差になりました。
さらに、レンジ切り替えを高速に行なうにはFETやフォトMOSリレー等半導体スイッチを使用する必要がありますが漏れ電流が1〜10μAにも及ぶ為メカニカルリレーを使用せざるを得ず、その機械的・電気的寿命制限を無視したとしてもせいぜいHzオーダーのレンジ切り替えしかできませんでした。*1)、*2)
また、マニュアルレンジ設定でレンジ設定を誤ったり、オートレンジの動作遅れ等の原因で測定レンジと入力電流の大きさが適合しない場合に、電流出力側が過大な電圧を発生させてシャント抵抗を焼損させる等の事故の危険もありました。
FRSはこれらの問題を解決し、高速、大ダイナミックレンジの電流検出をオートレンジで検出可能にします。
FRSには幾つかのバリエーションがありますが、大きく分けて次の4種類があります。
@受動FRS(Passive FRS、以下PFRS)
スイッチにダイオードを用いるもので、回路がシンプルです。
反面、測定確度がダイオードのV−I特性に依存するので1μAレンジ以下で誤差が大きくなります。
A能動FRS(Active FRS、以下AFRS)
漏れ電流防止回路を有し、ナノアンペアオーダーの電流測定が可能です。
反面、半導体スイッチとその制御回路を必要とするので回路規模が大きくなります。
B平滑FRS(Smooth FRS、以下SFRS)
AFRS回路において半導体スイッチの代わりに不感帯回路とリミット回路を組み合わせた回路によるスイッチを用いるので、スムーズなオートレンジでナノアンペアオーダーの電流測定が可能です。
反面、回路規模が大きくなります。
C混合FRS(Mixed FRS 以下MFRS)
PFRSとAFRSまたはSFRSとを併用してそれぞれの長所を活かしたものです。
(1)動作原理
図1はPFRSの基本回路で、内部3レンジの場合です。
レンジ1が最小レンジでフルスケールI1[A]、レンジ2は中間レンジでフルスケールI2[A]、レンジ3は最大レンジでフルスケールI3[A]とします。
R1、R2、R3はシャント抵抗(I/V変換抵抗)で、抵抗値の大きさはR1>R2>R3[Ω]です。
D1、D2はそれぞれ両端が電圧Va[V](=R1×I1)、Vb[V](=R2×I2)以上でオン、以下でオフになるようにダイオードを必要数直列に接続したものです。
入力電流IがI1以下の場合はD1、D2はオフなのでレンジ1〜3は全て有効です。
入力電流がI1からI2では入力電流Iの一部はD1でバイパスされレンジ1は無効、レンジ2、レンジ3は有効になります。
入力電流IがI2を越えると入力電流Iの一部はD2でバイパスされレンジ2も無効、レンジ3が有効になります。
演算回路で入力電流に応じた有効レンジの中で最小のレンジのI/V変換電圧出力を検出値とします。
以上の一連の動作により高速オートレンジを実現します。
動作原理の詳細については参考文献 *1)、*3) を参照して下さい。
(2)特長
PFRSはレンジ切り替えの為の特別な制御回路が不要な点が最大の特長です。
但し、D1、D2の漏れ電流が検出精度に大きく影響するので最小レンジはD1、D2のV−I特性で制限されます。
また、入力電流が大きい場合はD1、D2にバイパス電流が流れるのでダイオードの直列個数が多い場合は電力損失(発熱)が大きくなります。
さらに、増幅器A0の電源電圧はダイオードの電圧降下をカバーしてバイパス電流を流すだけの電圧が必要になります。
(1)動作原理
図2はAFRSの基本回路で、内部3レンジの場合です。
レンジ1が最小レンジでフルスケールI1[A]、レンジ2は中間レンジでフルスケールI2[A]、レンジ3は最大レンジでフルスケールI3[A]とします。
R1、R2、R3はシャント抵抗で、抵抗値の大きさはR1>R2>R3[Ω]です。
A5は電流I2[A]をドライブ可能な増幅器、A4はバッファアンプ、D1はダイオード、R4はA4の負荷抵抗、SW1はA5をオン−オフさせる半導体スイッチでこれらによりシャント抵抗R1の電流バイパス回路を構成します。
同様に、A6、A7、D2、R5、SW2でシャント抵抗R2の電流バイパス回路を構成します。
入力電流IがI1以下の場合は演算回路はSW1、SW2をオフにするので、D1、D2各々の両端電圧が等しくなってオフ状態になり、電流はバイパスされないのでレンジ1〜3は有効です。
入力電流がI1からI2では演算回路はSW1をオン、SW2をオフにするので電流I1xがA5でバイパスされレンジ1は無効、レンジ2、3は有効になります。
入力電流IがI2を越えると演算回路はSW2もオンにするので電流I2xがA7でバイパスされ、レンジ1、レンジ2は無効、レンジ3は有効になります。
演算回路で入力電流に応じた有効レンジの中で最小のレンジのI/V変換電圧出力を検出値とします。
以上の一連の動作により高速オートレンジを実現します。
動作原理の詳細については参考文献 *4) を参照して下さい。
(2)特長
バイパス回路オフ時にダイオードD1、D2の両端を強制的に同電位にし、その漏れ電流を無くして測定精度を高めるのがAFRSの特長です。これにより低レンジのフルスケール電流値を小さくできます。
また最大レンジのフルスケール電流値を大きくしても、A7はR3とD2をドライブするだけなのでその電源電圧を低くして電力損失(発熱)を小さくする事ができます。
(1)動作原理
図3はSFRSの基本回路で、内部3レンジの場合です。
図中db(Vm、Em)は入力電圧Vmに対して±Emの不感帯を持つ不感帯回路を示し、lm(Vn、En)は入力電圧Vnに対して出力を±Enに制限するリミット回路を示します。何れも一般的に知られたオペアンプ回路で構成出来ます。
基本的動作は3.節のAFRSと同等で、そのレンジ切り替えスイッチ(SW1、SW2)を不感帯回路とリミット回路に置き換えたものです。
各不感帯電圧とリミット電圧を適切に設定する事により、レンジ切り替え時の回路各部の電圧、電流変化を滑らか(SMOOTH)にします。
動作原理の詳細については参考文献 *5) を参照して下さい。
(2)特長
滑らかなオートレンジにより、低ノイズのFRSが実現できます。
(1)動作原理
図4はPFRSとAFRSによるMFRSの基本回路で、内部3レンジの場合です。
レンジ1−レンジ2間のレンジ切り替えはAFRSで行ない、レンジ2−レンジ3間のレンジ切り替えはPFRSで行ないます。
(2)特長
大レンジ側の電流が比較的大きい場合に、少ない回路で精度を確保する事ができます。
(1)電流を信号とする装置または測定器への応用
(2)フォトダイオード等、電流を出力とするセンサを用いる装置または測定器への応用
【応用例】
@モバイル機器用電流計、電気量計(クーロンメータ)、メッキ装置
−−→ エレクトロニクス分野、電池、メッキ等電気化学分野
Aフォトダイオード等光デバイス応用装置(輝度計、照度計)
−−→ 光デバイス分野、化学分析分野、バイオ研究機器分野
−−→ 計測タクトタイム短縮化を要する生産ライン
BLCD、有機EL、LSI等の直流特性検査装置
−−→ 表示デバイス、LSI開発、製造検査分野
C分子電気伝導度測定装置
−−→ 分子エレクトロニクス分野
(1)携帯電話用電流計 スーパークーロンメータ「PX03SC1」
AFRSの実証機として携帯電話の消費電流を高精度測定できる電流計(兼クーロンメータ)を開発しました。
詳細は 携帯電話用電流計 スーパークーロンメータ「PX03SC1」 を参照して下さい。
(2)電流・電圧発生器
回路の類似性により、FRSによる電流/電圧変換回路は容易に電流・電圧発生器に回路変更ができます。
図5はAFRSの電流値表示器付きの電圧発生器(CV)への応用例です。
(3)電圧計
図6は電圧検出回路への応用例です。電圧入力VinをバッファアンプA8で受けR6により電流Iに変換します。
動作は反転増幅器にオートレンジ機能を付けたものと同等です。外置きシャント抵抗からの電圧信号を測定する場合等に便利です。
製品にFRSを適用して頂けるメーカーを求めております。
FRS応用製品の受託開発も承ります。
スーパークーロンメータ「PX03SC1」、電流・電圧発生器のデモも可能です。
不明点は webmaster@proxi.co.jp にお気軽にお問い合わせ下さい。
【FRSに関連する参考文献】
*1) トランジスタ技術2003年3月号(275頁)「高速レンジ切り替え可能なクーロンメータの製作」
*2) 特許第3207037号 レンジ切替回路
*3) 特許第3628948号 電流/電圧変換回路
*4) 特開2005-167429 電流/電圧変換回路
*5) 特開2007-315980 電流/電圧変換回路